熱帯雨林の高木に着生。 ランは、美しい花の代表格のように思いますが、この写真のように、奇妙という表現しか当てはまらないのもあるのですね。 受粉して種子を残すための、バケツ型の唇弁だけが発達して、花びらや蕚片は、開花とほとんど同時にしょぼくれてしまいます。 この花の仕組みは、とても巧妙です。 ショベルカーの蝶番(ちょうつがい)のような部分からハチ(ミドリシタバチ)にとって好ましい匂いを出します。ハチにとっては香水のようなものらしく、 それを溜めて、雌への求愛に使うのだそうです。 白い突起から、水が滴っているのがお分かりでしょうか? この水滴をバケツ型の唇弁に溜めているのです。匂いにつられてきたハチを溺れさせる魂胆です。 雌に渡す香水を集めているうちに、うっかりバケツに落ちたハチは、当然出口を探します。 唇弁からの出口(4枚目の写真右側)には、オシベとメシベが合着した蕊柱(ずいちゅう) という部分(くぼみに見えているクリーム色のもの)が花の基部から下がって出口を塞いでいるので、ミドリシタバチは、 そこを抜け出すとき、背中に花粉を背負わされます。背負った花粉を、次に訪れる花で再度溺れて、メシベに渡すことが出来れば、受粉が成立します。 ハチも命がけ、というかよく懲りずにというか。 5枚目の写真は、ハチが潜り抜ける道を正面から見たところで、クリーム色部分から、花粉を背負わせられるのです。 また、このランは、シリアゲアリと共生していることでも知られています。 ランの、樹上に張り巡らせる根は、アリにとって格好の住みかになり、他の虫たちからランを守ります。 アリの運んでくる土や、その分泌物は、ランにとっては肥料にもなります。また、タネを運ぶ重要な役割も果たしてくれるのです。 花の役目が終わる頃、バケツの中を覗いてみると、溜まった水の中に小さな虫。きちっとはまっていた蝶番式の柱頭は外れていました。 |